導入
商談の前の下調べを、AIに任せる仕組みを作りました。相手の名前と日付を伝えると、社内の記録と公開情報を読んで、「何を確かめ、何を言い、何を言わないか」を1枚のメモにまとめてくれます。
結論を先に書きます。1回目の試運転で、AIは2つのことをやっていました。
- カレンダー・Notion・Gmailが読めないまま、メモを書き上げていた。
- お客様がLINEで当社にだけ話した「移転の予定」と「新しい事業の候補地」を、ネットの検索窓に打ち込んでいた。
2つ目は、AI自身がメモの末尾の自己チェックで「一部違反」と申告してきたので気づけました。検索の結果は何も出ず、メモにも使われていません。それでも、社外秘の情報が検索サービスに渡ったことに変わりはありません。
直して2回目は、10項目の自己チェックがすべて合格しました。この記事は、そのあいだに何を直したかの記録です。社員がAIに下調べを頼む会社なら、同じことが起きている可能性があります。
きっかけ
受講しているAI活用の講座で、「業務を1つ選んで、AIエージェントに任せてみる」という課題が出ました。AIエージェントは、指示を受けて自分で調べものや作業を進めるAIのことです。
選んだのは商談前の下調べです。ちょうど週明けに、小売店を営む方が事務所に来られる予定がありました。私はその準備を、2日前に自分の手で済ませていました。お店の公開情報、業界の前提、料金の答え方、補助金の条件を、13KBほどのメモにまとめてあります。
人が作ったメモがあるなら、AIに同じ仕事をさせて比べられます。試運転の相手として、これ以上の条件はありません。
最初に:AIに何を読ませ、何をさせないか
作る前に決めたのは、AIの「仕事の範囲」です。

- 読むもの:Googleカレンダー(商談の日時・場所)、Notionの議事録とタスク、Gmail(直近90日)、社内のメモ、お客様フォルダ、会社の料金表と営業ルール、それにWeb検索。
- 書くもの:決まったフォルダに置く、商談準備メモ1枚だけ。
- やらないこと:お客様への連絡(メール・チャット・LINEの送信、下書きの作成)、予定やタスクの登録・変更、社内の記録の書き換え。
AIの職務記述書にあたるファイルに、この3つを文章で書きました。さらに、AIが使える道具ごとに「許可」と「禁止」を設定ファイルで縛っています。文章で「送らないで」と書くだけでは、AIが勘違いしたときに止まりません。設定で「送信の道具そのものを使えない」状態にしておくのが本筋です。
覚える言葉は3つだけ
- AIエージェント。指示を受けて、自分で調べたりファイルを作ったりするAIです。今回は「商談準備の担当」という役割を1つだけ持たせています。
- 権限設定。AIが使える道具(ファイルの読み書き、メールの読み取り、Web検索など)を、1つずつ許可・禁止する設定です。
- 自己チェック。メモの末尾に、AI自身が「決まりを守れたか」を10項目で採点する欄です。今回、違反に気づけたのはこの欄のおかげでした。
試運転1回目:メモはできたが、2つ失敗していた
1回目のメモは約13,000字。構成は指示どおりでした。お店の状況、経緯、課題の仮説2つ、聞く質問3つ、出せる提案、言わないこと、持ち物まで埋まっています。8割は使える、というのが読んだ印象です。
ただ、末尾の自己チェックは9項目中7項目の合格で、2つが不合格でした。
失敗1:カレンダー・Notion・Gmailが読めていなかった
メモの冒頭に「Googleカレンダーは権限がなく読めなかった」とあり、Notionのタスク・議事録、Gmailも「未確認」でした。AIは読めなかったことを隠さず書き、代わりに社内メモの記載で日時を埋めていました。
原因は、道具の名前の違いでした。同じNotionやGmailでも、使う画面(デスクトップのアプリか、黒い画面で動かすコマンド版か)によって、AIから見た道具の名前が変わります。私は片方の名前でしか許可を書いていなかったので、もう片方で動かすと、許可されていない道具として弾かれていました。
直し方は、2通りの名前を両方書いた設定ファイルを、小さなプログラムで自動生成するようにしたことです。設定ファイルを手で直すと、次にまた片方を書き忘れます。
失敗2:お客様がLINEでだけ話したことを検索した
こちらが本題です。Web検索は3回で、上限の5回以内でした。ただ、2回目の検索語に、お客様がLINEの自己紹介で当社にだけ話した2つの語が入っていました。
- 「移転」(今年移転したこと)
- 新しい事業の候補地の地名
どちらも、お店のサイトや地図サービスには載っていない情報です。私の指示には「検索語に社内の情報を入れない」と書いてありました。AIはその決まりを読んだうえで、「最近の動き(移転・新事業)を調べる」という別の指示に引っ張られて、手元にある情報で検索してしまったのだと思います。
自己チェックには、こう書かれていました。
“ Web検索は5回以内(3回)、検索語に社内の情報を入れていない → 一部違反。 2回目の検索語に、LINEの自己紹介で知った語を入れてしまった(公開情報ではない)。 結果は何も得られず、メモにも使っていない “
申告してくれたのは助かりました。ただ、検索サービスに送られた語は取り消せません。社員が同じことをしても、たぶん誰も気づかないはずです。
もう1つ:料金表の「食い違い」
1回目のメモは、「記録が食い違っている」とも報告していました。私の手作りメモには地図検索対策や運用サポートの料金が書いてあるのに、AIに渡した料金表には「社長判断」としか書いていない、という指摘です。
原因は、渡した料金表が古かったことです。AIの失敗ではありません。サイトに載せている料金と、会社案内の料金を突き合わせて、料金表を書き足しました。
直したこと

| 直した点 | どう直したか |
|---|---|
| 検索語に社外秘が入った | 「検索語に入れてよい語」を具体的に限定した。入れてよいのは、相手の正式名称・店名・代表者名と、公開されている所在地・業種だけ。入れてはいけない例として「移転予定、新事業の候補地、予算、困りごと」を書いた。迷ったら入れない |
| カレンダー等が読めない | 道具の名前を2通り書いた設定を自動生成するようにした |
| 料金表が古い | サイト掲載の料金と段階を書き足した |
| 権限の穴 | 関係のない道具をサーバー単位でまとめて禁止。パスワードを含む名前のファイル、会話の記録、鍵の置き場所を読めなくした。確認なしで動くモードも禁止 |
| 手順の抜け | カレンダーから作業記録や私用の予定を外す規則、商談のゴール・事例・持ち物を書く手順を足した |
権限設定の数は、次のように変わりました。
| 1回目 | 2回目 | |
|---|---|---|
| 許可している操作 | 22 | 37 |
| 禁止している操作 | 38 | 182 |
禁止が大きく増えたのは、使わない道具を1つずつ名前で禁止したからです。そのうち138がメールや会計など外部サービスの道具でした。「書いていないものは使えない」作りにしたつもりでも、後から道具が増えると、その道具は最初から使える状態で入ってきます。だから、関係のないものは明示的に塞いでいます。
この点検は、作った私とは別のAIに頼みました。作った本人は「こう動くはず」という前提で見てしまうので、穴に気づきにくいからです。権限の穴、パスワード類のファイル、確認なしで動くモードの3つは、この別の目から出た指摘です。
試運転2回目:10項目すべて合格
直してすぐ、同じ商談でもう一度頼みました。
- カレンダーから、当日の予定(来社・面談の時間)を読めた。
- Notionのタスク・議事録とGmailを検索し、「この相手の記録はまだない」と確認できた。1回目の「未確認」が「該当なし」に変わりました。
- Web検索は3回。検索語は「店名+公開されている市名」「店名+所在地+口コミ」「掲載ポータル名+店名」だけでした。
- 自己チェックは10項目すべて合格。

2回目のメモを、私が手で作ったメモと並べて読むと、AIのほうが良かった点もありました。最寄駅からの徒歩分数がサイトによって食い違っていることを拾っていたこと、「誰が決めるか・予算はどこから出るか」を確かめる質問を必ず1つ入れていたことです。逆に、業界の事情(この業種のお客様は急いでスマホで探すことが多い、など)は、私のメモを読んで書いていました。AIが自分で見つけたものではありません。
つまずき早見表
| 起きること | 原因 | 対処 |
|---|---|---|
| メモに「読めなかった」が並ぶ | 道具の許可が、使う画面の片方の名前でしか書かれていない | 名前を両方書く。設定は手で直さず自動生成する |
| 社外秘が検索語に入る | 「調べて」の指示と「入れないで」の指示がぶつかった | 入れてよい語を具体的に列挙し、迷ったら入れないと書く |
| 「記録が食い違っている」と報告される | AIに渡した料金表が古い | 料金表を最新に。料金を変えたら料金表も直す決まりにする |
| AIが連絡や登録をしてしまう不安 | 文章の指示だけで縛っている | 送信・登録の道具を設定で禁止する |
| 作った本人が穴に気づかない | 前提で見てしまう | 別のAIか別の人に点検してもらう |
確認方法
自社でAIに下調べを任せるなら、次の3つを1回目の試運転で見てください。
- AIが使った検索語を、全部書き出させる。社内でしか知らない語が入っていないか。
- 「読めなかったもの」を書かせる。黙って推測で埋めていないか。
- 送信や登録の道具を、実際に使えない状態にしてあるか。「使わないで」と書いただけで済ませていないか。
1つ目は、自己チェックの欄に「検索語を全部書く」を入れておくと、毎回見られます。
正直に書いておくこと
- 試運転は同じ商談で2回しただけです。別の相手や、記録が多いお客様でどう動くかはまだ分かりません。
- 2回目で検索語の問題が出なかったのは、決まりを具体的にしたからだと考えていますが、毎回守られる保証はありません。だから自己チェックで毎回申告させています。
- 料金の最終判断や「この話は出さない」の判断は、メモに「社長判断」と書かせて、人が決めています。AIのメモは、そのまま使うものではありません。
- 1回目に検索に入った2つの語は、検索サービスに送られています。結果は0件で、メモにも残っていませんが、送られた事実は取り消せません。
- 見本にする「良いメモ」はまだ1枚もありません。私が「これは良い」と認めたメモを見本として渡すのが、次の育て方です。
要点3行
- AIに下調べを任せると、手元にある社外秘を、悪気なく検索に入れることがあります。
- 「入れないで」より「入れてよいのはこれだけ」と書くほうが守られました。送信や登録は、設定で道具ごと塞ぎます。
- 試運転では、AIに自分の検索語と「読めなかったもの」を申告させると、失敗が見えます。
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