不動産会社さんとの30分のオンライン商談で、AIが会計の仕事をする様子を実演しました。用意したのは架空の不動産会社のデータです。銀行明細32件をAIに渡すと、勘定科目の下書きを作ったうえで、人が見落としやすい4件を「要確認」として登録前に止めました。そのうち1件は、私が仕込んでいなかったズレです。この記事は、その実演で経営者の方に見てもらった3つの場面と、正直なところ何ができて何ができないかをまとめたものです。

月末の「入金チェック」は、こんな作業です
家賃や駐車場代が入っているかを確かめる作業は、通帳の明細と入居者の一覧をにらめっこする時間です。振込の名前はカタカナで、入居者本人の代わりに家族の名前で入ってくることもあります。振込手数料を引いた金額で入ってきたり、2か月分がまとめて入ってきたりもします。件数が多いほど、月末の夜が長くなります。
今回の相手は、不動産の売買と賃貸をしている会社さんでした。会計ソフトを社内で回せておらず、月次の数字が税理士から返ってくるのが遅い、という相談です。「AIで何とかならないか」が社長からの宿題でした。
なぜ架空の会社で見せたのか
実演に使える会計データは、自社のものしかありません。初対面の商談で自社の残高や取引先を映す理由はないので、架空の不動産会社を1社作りました。物件3つ(賃貸マンション2棟と月極駐車場)、入居者14世帯、駐車場10区画、8月の銀行明細32件、1月から7月までの仕訳235件です。
大事なのは、数字だけが架空で、AIと会計ソフトの接続は本物だということです。作り物の画面を「動いています」と見せる方法は取りませんでした。本物のAIに本物の窓口から読ませているので、その場で経営者の方が思いついた質問にも答えられます。
そして、明細の中にわざと4つのズレを仕込みました。上の図の4件です。AIが本当に役に立つのは、人が見落とすズレを拾う場面だからです。
仕組みは3つの箱だけ

御社の会計ソフトと、御社が契約したAIが、会計ソフト会社が用意している公式の窓口でつながります。弊社のパソコンやサーバーは間に入りません。普段の操作は、いつものAIのチャット画面に日本語で話しかけるだけです。「8月の入金で気になるものを出して」と打てば、AIが会計ソフトを読みに行って答えます。
実演では黒い画面を使いましたが、それは架空データを返す仕組みが手元のパソコンで動いているためで、本番ではチャット画面から同じ質問を投げるだけです。
場面1:明細32件の仕訳を下書きして、4件で止まった
最初の指示はこれです。
「8月の未仕訳の明細を取得して、過去の仕訳の傾向から勘定科目・部門・税区分を提案する一覧を作ってください。登録はまだしないでください。」
AIは1月から7月の仕訳を読んで「この会社はこう仕訳している」という傾向をつかみ、32件それぞれに科目・部門・税区分を付けました。管理会社への支払いは管理諸費、給湯器の交換は修繕費、固定資産税は租税公課、といった具合です。ローン返済は元金と利息に分け、税理士への支払いは源泉徴収分を分けて提案してきました。
そのうえで「要確認」を4件に分けました。仕込んだズレのうち3件(2か月分まとめ入金、入金なし、手数料440円の差引)と、私が仕込んでいなかった1件です。コンビニで払った1,280円に前例がなく「消耗品か飲食か分からないのでレシートを確認してほしい」と止めてきました。残る1件の家族名義の振込は、あとの場面3で拾います。

いちばん見せたかったのは、2か月分まとめ入金です。AIは「7月分の家賃はすでに7月に仕訳済みなので、この13万円をそのまま家賃として登録すると7月分が二重計上になります」と指摘し、取りうる処理を2つ並べて、判断を人に返してきました。人が見落としてそのまま登録していたら、売上が6万5千円多く計上されていたところです。
もう1つ大事な点があります。AIは「登録して問題ない28件」と「判断待ちの4件」を分けて出し、登録はしていません。人が確認して「登録して」と言うまで、会計ソフトには何も書き込まれません。
場面2:「6月から収支が悪くなった理由は?」に、理由まで答える
次の指示は、物件別の数字についてです。
「グランメゾン枚方の今年の月別損益を出して、6月以降に収支が悪化した理由を説明してください。」

AIは月別の損益表を出したあと、「原因は302号室の退去ひとつ」と特定しました。5月末に1部屋が空いて家賃が月7万7千円減り、6月に退去後のクロス張替9万5千円と募集広告6万6千円が重なった、という説明です。5月から6月の減益額が、家賃減と修繕費と広告費の合計にぴったり一致することまで示してきました。
さらに「ローンの元金返済は損益に出ないが毎月25万円出ているので、空室が続くと資金繰りが薄くなる」と、聞いていないことまで補足してきました。不動産をされている方なら、この一言の重みが分かると思います。
場面3:入居者一覧と入金明細を突き合わせる
最後の指示です。
「入居者一覧のCSVと8月の入金明細を突き合わせて、未入金と要確認を一覧にしてください。」
会計ソフトの外にある入居者一覧(Excelの表)と、会計ソフトの中の入金明細をAIが突き合わせました。結果は、未入金1件(サンライズ樟葉102号・6万2千円)、要確認3件(手数料440円の差引、家族名義の振込、2か月分まとめ入金)です。家族名義の振込は「入居者一覧の備考に家族名義の記載があり、金額も一致するので入金済みと判定」と、判断の理由まで添えてきました。
締めに、請求総額98万8千円と入金総額99万560円を並べ、差額が「未入金6万2千円+手数料差引440円」と一致する検算まで付けてきました。月末にこの一覧がLINEに届く仕組みまで作ると、「確認しに行く」作業が「届いたものを見る」作業に変わります。
経営者の方が必ず聞く3つのこと
AIの仕訳は正確なのか。 導入直後は6〜7割、御社のルールを教え込んで8〜9割が目安です。だからAIは下書きまで、登録は人が確認してから、という運用にしています。税理士の科目チェックはこれまでどおり残します。
会計データをAIに渡して大丈夫なのか。 会社契約のAIでは、入力した内容が学習に使われません。接続は御社の名義で行い、弊社が会計データを預かることはありません。マイナンバーや暗証番号のように「入力してはいけない情報」を最初に決めて、社内のルールとして紙1枚にします。
税理士は要らなくなるのか。 なりません。決算と申告、科目の最終チェックは税理士の仕事のままです。変わるのは、税理士に渡す数字を社内で先に固められることと、月次の数字を待たずに自分で見られることです。
正直に書いておくこと
- 架空データで見せられるのは「AIがどう読み、どこで止まるか」までです。御社の実データでの精度は、上に書いた目安のとおりです。
- AIの回答には時間がかかります。実演でも最初の質問の応答が長く感じました。速く見せる工夫より、待ち時間に何を話すかを決めておく方が効きます。
- 実演に使った架空の会社の仕組みは、実演専用です。本番の接続は御社名義で、御社の会計ソフトと御社のAIの間に直接張ります。
同じことを、御社の数字で
この実演と同じ3つの場面を、御社の会計ソフトで動くようにするのが弊社の仕事です。設定が終わったあとは御社の中で回るので、毎月の保守費はありません。まず「うちの場合はどこが効くのか」を知りたい方は、1時間の無料ヒアリングでお話しします。ヒアリングの中で、ひとつはその場でAIにやらせてお見せします。
裏側の話(同業の方へ、3行だけ)
- 架空データを返す仕組みは、公式の窓口と同じ形の呼び出し口を持つプログラムを1つ書いて用意しました
- AIを起動するときに「この窓口だけを読み込む」設定にして、本物の会計データが出る経路を断ちました
- データには必ずズレを仕込みます。AIが止まるところを見せるのが、いちばん伝わる実演になります