freeeもマネーフォワードも、公式のMCPサーバーを提供しています。Claudeに繋げば、日本語で頼むだけで仕訳を登録したり試算表を取ってきたりできます。
では「確定申告まで自動化できるか」。できません。両社が公開しているAPIに、申告に関するものが1つも含まれていないからです。
この記事では、一次情報で確認したできること・できないことと、実際にかかる費用、そしてこの領域でサービスを作ろうとして4回設計をやり直した記録を書きます。
きっかけ:個人事業主向けのサービスを作ろうとした
「freeeとClaudeを繋いで、個人事業主が税理士なしで確定申告できる仕組みを商品にできないか」——そう考えて調べ始めました。
結果、4回設計をやり直して、最終的に保留にしました。やり直すたびに、同じ構造の壁に当たったからです。
- 確定申告の自動化として設計 → 申告APIが存在せず、自動化できる範囲は記帳までと判明
- 記帳の自動化に絞る → freeeが「入力おまかせ」プランで記帳代行そのものを提供していると判明
- 経理以外にも広げる → マネーフォワードが「AI Cowork」で経理・労務・法務まで自律処理すると発表
- 顧客層を変える → 払える層には税理士がいて、悩みがある層には予算がない
技術的な制約と、ベンダー自身が同じ領域を埋めに来ているという構造。この2つが分かったのが、今回いちばんの収穫でした。同じことを検討している方の判断材料になればと思います。
用語は3つだけ
- API … 画面を開かずにデータをやりとりする裏口。会計ソフトが「ここまでは外部から触っていい」と決めた範囲
- MCP … AIツールとAPIをつなぐ共通の規格。これがあるとAIが自分でAPIを呼べる
- スコープ … その接続で何ができるかの範囲指定。「仕訳は読める」「取引は書ける」を項目ごとに決める
重要なのは、MCPは「APIへの入口」でしかないという点です。APIに無い機能は、MCPを繋いでも使えません。今回の話は全部ここに集約されます。
できること:一次情報で確認した範囲
両社の公式発表から、対応状況を整理します。
| freee | マネーフォワード クラウド会計 | |
|---|---|---|
| 公開時期 | 2026年3月2日にOSSとして公開 3月27日にリモート版を提供開始 | 2025年10月3日にβ版 2026年3月26日に全プランで提供開始 |
| 接続方法 | AIツールにURLを登録してログイン | アプリポータルで連携権限を付与してURLを登録 |
| 対応AIツール | Claude Desktop・Claude Code・Cursor など | Claude Desktop・Claude Code・Claude Cowork・Cursor・Gemini CLI |
| できること | 仕訳・取引・請求書・工数・販売などの参照と登録 | 仕訳データの参照・登録、帳簿検索、試算表の参照、レポート作成 |
freeeはリモート版の登場で、パソコンに開発環境を作る必要がなくなりました。マネーフォワードも全プランで開放されており、外部連携用のAPIもあわせて公開されています。どちらも、以前より格段に入口が低くなっています。
AI側の費用も心配ありません。Claudeは無料プランでもカスタムコネクタを1つまで使えます。会計ソフト1社との連携ならこの範囲に収まります。
できないこと:申告APIが存在しない
ここが本題です。
freeeが公開しているPublic APIは7つのプロダクト・382件(2026年6月時点)。内訳はこうです。
- 会計 / 人事労務 / 請求書 / 工数管理 / 販売 / IT管理 / 業務委託管理
この中に「申告」はありません。確定申告書の作成も、e-Taxへの送信も、APIからは操作できません。マネーフォワード側も、公表されているMCPの対応範囲は仕訳・帳簿・試算表・レポートまでで、申告は含まれていません。
つまりAIが手を出せるのは記帳までで、申告書の作成と提出は人が画面で操作することになります。これは設定や権限の問題ではなく、そもそも機能が公開されていないという話なので、回避策はありません。
では、AIを繋ぐ意味はないのか
あります。ただし期待する場所が変わります。
freeeの場合、確定申告書の作成自体はスマートフォンのアプリだけで完結します。質問に答えていけば書類ができ、マイナンバーカードがあればe-Taxでの提出までその場で終わります。申告の工程は、すでに十分に簡単です。
大変なのはその手前——1年ぶん溜まったレシートと明細の処理です。AIが効くのはここであって、申告そのものではありません。
売り文句としては「確定申告まで全自動」ではなく、「記帳をAIが片づけるので、確定申告は最後の画面操作だけ」が正確です。
費用はいくらかかるのか
「MCPを使うのにいくらかかるか」という疑問には、こう答えられます。
| 必要なもの | 費用 |
|---|---|
| MCPサーバー | 別途の利用料は設定されていません。マネーフォワードは全プランで提供と公表。freeeも追加料金の記載を出していません |
| 会計ソフト | 契約中のプラン料金のみ |
| Claudeのアカウント | 無料プランでも可(カスタムコネクタ1つまで) |
| 開発費用 | 不要。接続用URLを登録して承認するだけ |
参考までに、freee会計の個人事業主向けプランは次のとおりです(税抜・年額)。
| プラン | 年額 | 内容 |
|---|---|---|
| スターター | 11,760円 | 確定申告書作成、明細取得。レシートは月5枚まで。消費税申告なし |
| スタンダード | 23,760円 | 消費税申告、詳細レポート、レシート無制限 |
| プレミアム | 39,800円 | 電話サポート、税務調査サポート、データ移行代行 |
| 入力おまかせ | 49,800円 | 入力・仕訳代行(月60件)+自動登録ルールの提案・設定支援。61件目から70円/件 |
すでに会計ソフトを使っているなら、追加の出費なしで始められます。ただし無料プランは利用量の上限が低いため、1年ぶんの仕訳をまとめて処理するような使い方には向きません。日常的に使うならClaude Proを検討することになります。
見落としやすい構造:ベンダー自身がこの領域を埋めに来ている
表の最後の行に注目してください。freeeは「入力おまかせ」プランで、記帳代行そのものを年49,800円で提供しています。しかも自動登録ルールの提案・設定支援まで含まれます。
マネーフォワードはさらに踏み込んでいます。「マネーフォワード AI Cowork」を2026年7月より提供開始予定と発表しました。自然言語の指示で複数のAIエージェントが連携し、経理・労務・法務など幅広いバックオフィス業務を自律的に完結するサービスです。複雑な設定は必要ないと明記されています。(2026年8月時点では先行受付中で、料金は公表されていません)
つまり「MCPを設定して自動化する」という作業そのものを、ベンダーが不要にしようとしているということです。
私が商品設計を4回やり直したのは、まさにこの壁に繰り返し当たったからでした。個人事業主向けでも法人向けでも、想定した提供価値をベンダー自身が先に埋めていました。
それでも残る価値
では手を出す意味がないかというと、そうではありません。ツールが進化しても残る部分があります。
- 勘定科目のルール設計 … どの取引をどの科目に落とすかは事業ごとに違う。ツール側では決められない
- どこまで任せてどこを人が確認するか … この線引きも会社ごとに異なる
- 会計ソフトの外側 … 請求書の発行、顧客対応、提案資料。会計ソフトの守備範囲ではない
- 溜まった過去分の一括処理 … 月次の継続処理を前提とするサービスでは救いにくい
ツールが賢くなるほど、設計の重要度は上がります。「繋ぐこと」自体には値段が付かなくなる、というだけの話です。
検討するときのつまずき早見表
| よくある誤解 | 実際 |
|---|---|
| MCPを繋げば確定申告まで自動化できる | できません。申告APIが存在しないため、申告書の作成と提出は人が画面で操作します |
| MCPを使うのに追加料金がかかる | 別途の利用料は設定されていません。会計ソフトの契約料のみです |
| Claudeの有料プランが必須 | 無料プランでもカスタムコネクタを1つ使えます。ただし利用量の上限は低いです |
| 開発が必要 | 不要です。接続用URLを登録して承認するだけで、プログラミングは発生しません |
| MCPさえあれば何社でも回せる | MCPは会話しながら1社を操作する接続です。事業者を切り替えるたびに繋ぎ直しが要るため、多数の事業者を毎晩確実に処理する用途にはAPIを直接使う構成が向きます |
正直に書いておくこと
この記事の内容は2026年8月時点の公表情報にもとづいています。この領域は動きが速く、数か月で前提が変わります。実際、調べ始めてから記事を書くまでの間にも、マネーフォワードのAI Coworkの発表がありました。
特に申告APIについては、将来的に公開される可能性があります。現時点で存在しないというだけの話です。導入を検討される際は、必ず両社の公式ドキュメントで最新の対応範囲を確認してください。
また、会計ソフトのデータをAIに渡すこと自体の判断は別途必要です。どの範囲の権限を与えるか、誰がその接続を使えるか、操作の承認をどう運用するか。技術的に繋がることと、業務として安全に回せることは別の問題です。
要点
- MCPはAPIへの入口でしかない。APIに無い機能は使えない。申告APIは存在しないので、確定申告まで自動化することはできない
- AIが効くのは記帳。申告書の作成自体はすでに十分簡単で、大変なのはその手前の帳簿づけ。売り文句はここに合わせる
- 「繋ぐこと」には値段が付かなくなる。ベンダー自身が設定不要のサービスを出してくる。残る価値は、事業ごとの仕訳ルールの設計と、どこまでAIに任せるかの線引き
出典:freee Developers Community(Public APIリファレンス)、freee株式会社プレスリリース、マネーフォワード クラウド会計サポート、株式会社マネーフォワードプレスリリース、Anthropicヘルプセンター。いずれも2026年8月時点。